書評日記 第99冊
あぶ・らぶというのは、アブノーマル・ラブの略だ。つまり、「異常性欲」ということ。ただし、高橋鐵先生の云うこところによれば、「異常」とは、「正常」よりもちょっと離れた段階を示すものであって、誰しもが、多少の異常性を秘めている。そういう意味では、誰もが「異常」なのである。
大学時代、ある文芸倶楽部の会合で、「誰でも異常者なんだよ」と云ったら、賛成してくれたのは、筒井康隆FANである一人の学生だけだった。ま、世の中そんなに、「真実」を知っている人は多くないわけなのだが、少なくとも、この書評日記を読んでいる諸君諸嬢は知っておいて欲しいと思うんだけどなあ。お節介か? これって?
いつも一緒にいる人、つまりは、恋人なり、愛人なり、をそういった性欲の吐け口にしてしまうのは、俺としては、ちょっと抵抗を覚えるのであるが、そういう性愛のお遊びを「あぶ・らぶ」では推奨している。
異常性愛といえば、SMが思い浮かぶだろうが、性転換願望なり、フェチシズムなり、同性愛なりを、ある程度、自分の願望に沿って露出することを、この本では奨めている。そういう感情は誰もが持っているものであるから、逆にそれを自らを「異常者」(正常者の反対という意味で)で貶めてしまい、イドの内部に囲ってしまうことで、忘れようと努めるのは却って危険なことなのかもしれない。
しかし、当然のことながら、その「異常性」は社会秩序の中で許容される範囲で行われるべきである。つまり、強姦・幼姦・殺人などは、避けねばいけない衝動である。ひとに迷惑をかけない範囲で、ということであろうか。被害者を作ってはいけない、と思う。
だから、俺が思うに、昨今の「言葉狩り」というものは、社会的に自分達の「自由」をますます狭めている、すなわち、鬱屈してしまったリビドーが吐け口を求めて、さらなる犯罪行為を誘発している。
エロ漫画の規制しかり、放送禁止用語しかり、そして、これに従う民衆の自粛行動しかり。そういった表面的な規制が、それぞれの個人に、「自粛」という聖女的な装いを強制していることが、いかに「不自然」なことであるのか、そして、ひととしての営みの中でどれほどの負担を強いているのか、各々が考えて欲しい。中高生のデートクラブが容認される(?)のは何故か。陰湿ないじめが後を絶たないのは何故か。低俗なTVばかり放映されるのは何故か。
てっとり早く、本の内容を説明すれば、以上のことを含め、その個々の「異常性」を、社会生活に直接に漏らせてしまうのではなく、内部的な昇華と、その自己認知の仕方が、この本には書いてある。
少なくとも、自分が「異常者」ではないか、と思い当たった者は読んだ方がいいと思う。もちろん、最後まで通して読まなくてはいけない。高橋鐵がこれらの本を書いたのは、「戦争」という人類の非常事態が産み出した弊害を認識するため、ということと、それらの大人達は、「人格形成期」に失ったものを自らの手で「再形成」することをすすめているから。
るふ、つまり、こういうことを「流布」することは必要だと思うため、また、知っておいて欲しいために、俺はここに記録として残しておく。尤も、俺自身の読書記録であるから、その辺は諸君諸嬢が強制される必要はないのだが、こういった「お節介」もたまには必要だと思うときがある。
とかく、最近の社会は、プライベートを重んじるものであるから、他人の考えや生活に土足で踏み込むことは禁じられているし、意見することさえもタブー視されることが多い。しかし、それらの「お節介」が必要であること、また、必要とされている人が多いことを覚えておいて欲しい。そういった、「SOS」の信号を発している人を敏感に見つけられるようになって欲しいと思うんだがな、俺としては。別にさ、怒られたっていいじゃない、彼、乃至、彼女が、元気であれば、さ。そーいうもんだろ。
たとえばだな、「しゃべり過ぎ」の人がいたとする。普段は無口なのに、なにかの拍子でしゃべりはじめるとする。そのしゃべりは止まらない。また、ひたすら沈黙を守っているのだが、その「そぶり」を時々見せる。云おうとして黙ってしまう。見落としてしまうと、ほんとうに微妙な「SOS」の信号なのだ。カウンセラーを専門にやっている精神医学の先生でも見落としてしまうほど、微妙な信号なのであるから、我々素人に解るはずかない? いや、そんなことはない。彼、乃至、彼女を見ていれば解るはずだ、きっと。見続けていれば、解るはずなんだがなあ、俺としてはさ、そう思う。
まあ、むろん、心理学がすべてを解決するわけではないし、むしろ、心理学はその手段にすぎないから、悪用もできるわけで、一時期流行った、フロイト的分析により、「夢判断」が大いに誤解されてたと思うんだけど、今はどうなんだろうか。ま、俺も誤解してしまったひとりかもしれないので、今日、「夢判断」を買ってきた次第。
もうちょっとさ、体系的に知っておこうと思うわけ。一通り読んだらこの書評日記で紹介しよう。「お節介」って、俺、好きなんだよな。ま、時々暴走するけど、全然考えてないってわけじゃない。計算違いってことが、ままあるけど。そんときは、謝るんでよろしく。
きっと、読んでいるだろうと思う、あなたへ。
ほんとは、さあ、101冊めにやろうと思ったんだけど、さ。その、「ネタ振り」する奴が居て、うるさくって・・・、でも、彼には「ありがとう」と云っておこうか、とりあえず。
段落の頭の字を連ねてごらんなさい、俺の想いが伝わるでしょうか?
update: 1996/09/09
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