書評日記 第311冊
高野聖 歌行燈 泉鏡花
新潮文庫

 歌行燈の方は映画の方で先に接した。
 土曜日毎に杉並区中央図書館で映画を観ることにしてから、一ヶ月が経とうとしている。別に出掛ける用事があるわけでもなし、一人だけの時間を持て余し過ぎると陰鬱になってしまうので、気晴らしとしては良いかもしれない。むろん、気晴らしにしたって色々あるわけなのだが……。
 その映画は昭和30年代だったはず。
 最初の「野次平」と「捻平」の会話が、膝栗毛を彷彿とさせるのは、それを意識しているからでもあり、原作に改めて接することで彼等の会話の異様さが、泉鏡花自身に根差されたことを知る。

 泉鏡花は初めて読んだと思う。
 解説にある通り、「不気味さ」というものが一番に押し出された作品群ではないだろうか。
 「一風変わった」という形容詞を拒否するような独特さが滲み出てくる。現在においてもこのような小説(または物語り)が認められるかどうかわからないのだが、泉鏡花という名のジャンル分けさえ作れるような強い独立性を感じる。

update: 1997/06/18
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