書評日記 第378冊
高嶋嶺雄は東京外国語大学学長。専門は中国研究。中国関係の著作が多数。
講演を聞いた第一印象は、「この分野、私は余りにも知らない」であった。実質的な中華民国と中華人民共和国の違いが分かっていないし、文化大革命を境に急速に変化している「新しい中国」がよくわかっていない。誰でもそうらしいのだが、「中国4000年の歴史」というキャッチフレーズは現代の中国とは限りなく遠い。中華人民共和国になってからの48年間という浅い歴史しかない、と割り切って考えるのもよいかもしれない。おのあたり、今後の香港や台湾、韓国、との関係を考える上で必須になると思う。
阿片戦争での借款地として香港は英国の領土になるわけだが、今のような繁栄した香港を勝ち得たのはイギリスと香港に住む資本主義思想の中国人である、と高嶋嶺雄は云う。だから、香港をイギリスが中国に返還したとしても、それは東西ドイツの統一とは違った趣を持つことになる。また、中国側にすれば「返還」されたのではなくて「回帰」ということで自分達の手に戻ってきた、ということになる。
国際情勢を広く眺めれば、今後の香港の中国化は経済都市としての香港の衰退を容易に想像することができる。これは香港がイギリス領土ではあるにしても、寄港地として観光地といして自治区として都市として、非常に自由な経済都市である、ということに起因すると思う。中国の圧政・変動から逃げてきた華僑・中国資本家達がこぞって香港にある自由を謳歌する。ある意味で共産主義と資本主義の現実社会の狭間にあったからこそ、発展した都市である、という土地柄的な運命の良さを香港に被せることができる。だから、衰退してしまっても以前が良すぎた、だけなのかもしれない。
ただ、香港が幸福であったのは、イギリスが紳士の国であった、ということだろうか。確かに大航海時代のイギリスは植民地政策に必死であったには違いないのだが、だんだんと国自体が老成してきて、国民が自国の内側に目を向けるようになった時、香港はその自由さを自由なままに使うことができたのではないだろうか。
もっとも、これは随分とイギリスを幻想視した見方である。本当のところは、国力が衰退してきて、アイルランドを含む民族問題や、失業率の増加、国民の覇気の減退、というところから、香港はほったらかしになってしまった、というのが現実だと思う。
これは会場に来ていた人達を見て。
当然(?)のごとく老齢者多数。いわゆる、勉強したくてもできなかった世代や、知識に飢えている世代なのかもしれない。一線を退いた人達の楽しみの場というものだろう。生涯教育の一環とも云える。
ただ、本来ならば「香港問題」なんてものは、日本の沖縄問題・安保問題も含めてこれからの人達が聞いて考えていかなければならない問題なのだが……みなさん、仕事に遊びに忙しいのであろう、という皮肉な考えも出てきてしまう。
いわゆる、「利潤とは何か?」ということを長い目で考えて見れば、現代社会の出来事に敏感になっておくのも必要だと思う。これは、学校という学習を強制される場とは違った個人の意志、ということなのだろうが。
update: 1997/12/15
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