書評日記 第401冊
原色の街・驟雨 吉行淳之介
新潮文庫 ISBNISBN4-10-114301-3

 吉行淳之介の本を読むのは初めて。多分、この先、彼の本を好んで読むことはないように思える。これは、私の読書遍歴は吉行淳之介とは決して繋がらない系譜を辿ってきたこと意味し、これからも決して繋がらない系譜と辿るのだろうということを意味する。
 鳥尾敏雄同様、『男流文学論』によって「不当に高く評価されている男性作家」に挙げられている。ただ、この短編集を読んだ限りでは決して評価されて過ぎている、という感じはしなかった。それなりに評価されるべき短編であったような気がする。ただ、吉行淳之介がどれほど評価されているかを私は知らない。個人的すぎると思われる見解をあえて述べれば、三島由紀夫や菊池寛や安部公房や大江健三郎や川端康成と肩を並べるほどではないと思う。井伏鱒二や清水範正、景山民夫、が評価される程度のものかもしれない。うーむ、ちょっときびしすぎかも。
 
 村上春樹の初期作品である『納屋を焼く』あたりに似ているような気がする。ただ、『納屋を焼く』という作品が永劫的な文学作品といして名を連ねるに足るのか、と問われれば否と答えるだろうし、カフカの『飢餓芸人』のインパクトに比べれば、『驟雨』はあまりにも物足りなく、日本的すぎる。当然、ガルシア・マルケス『百年の孤独』・『緑の家』の方が数段上であろうし、谷崎潤一郎の固執した魂に比べれば、吉行淳之介の淫猥さなぞ取るに足りないような気がする。また、谷崎俊太郎のあっけらかんとした姿勢の方が私には似合っている。
 筒井康隆『エディプス諸島』や『衛生博覧会』と比べるのは酷だろうか。サド文学を射程に入れている気はしないし、かといって、永井荷風のような自堕落とは違う。酒見賢一や瀬名秀明と比べてしまうと怒るだろうか。
 そういうところでは、村上龍『ラブ&ポップ』の方が幾分上かもしれない。
 
 当然、これらは私の好みが含まれているし、私の個人的な読書遍歴から求められた評価に過ぎない。
 1994年に没しているのでこれ以上鞭打つのは止そうと思う。

update: 1998/1/23
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