書評日記 第491冊
SFバカ本 たいやき編プラス 岬兄悟、大原まり子編
廣済堂文庫 ISBN4-331-60735-6
実は、アンソロジーというものを読んだことがない。文芸雑誌や漫画雑誌を別にすれば、いろいろな作家がひとつの本になったものを購入する気が無い。一冊の本を読んでいる間は、ひとりの作家に浸っていたいからだと思う。
が、最近みたいに短編集が出るのが困難になって来ると、こういうごちゃ混ぜの本(企画本なのだけど)は、手っ取り早く、同時に、流行に後れることなく本を出版するためには必要なのだろう。
SFでハチャハチャをやるとすれば横田順彌なのだし、バカ話なら筒井康隆も小松左京も半村良も書いているのだが、それと比較すると、この「SFバカ本」は数段劣る。何故、劣るのかと云えば、根源的にバカをやる気がないのではないか、と思う。いわゆる純文学が文学の中心にあることが現在においても揺るがず、学問をすることが偉くて、何か人に認められることを求めて、自分本位な己を捨ててしまっても学のある大衆(矛盾だが)に認められることを基準にして、小説を書いてしまうから、ではないか。
いわば、身内のバカ話を一般に問うという楽屋落ち雰囲気が、以前のハチャハチャSFよりも劣る理由ではないだろうか。こじんまりまとめるよりも、作品自体を放り投げたって構わないと思う。
とはいえ、最後のひとつ(インターネット文学賞を取った作品)を除いて、すべて読み下し、すべて面白いと思った。こういうものが作品として本になって利潤を生み出す(と思うのだが)というのが不思議でもあり、頼もしくもあった。岬兄悟は相変わらず彼らしい象徴的でえっちな女性を書いているし(私は「ドドンパ…」を一冊読んでうんざりしてしまったのだ)、文章に磨きがかかり文体に創意工夫をしたとしても、個人的な部分は全く変わっていない。ホモ小説もレズ小説も読み、これに何が欠けているのかがわかった。何がホモ小説とかレズ小説の内容を薄っぺらなものにしているのかがわかった。それでも、読むに耐える小説である。一定水準以上の文章能力はあって、一定の購読層を得るのは当然であるけど、一定水準以上の魅力が薄い。
と、貶しているように見えるのは、一日で読み終える目を楽しませる雑文でしかなかったから。そうなると、笠井潔『サマー・アポカリプス』を本屋で探して買って読む、という行為は、彼の作品の魅力は、私に対して一定水準以上のものであることを示しているのだろう。
update: 1999/05/14
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