書評日記 第618冊
ビデオで今ごろ覧た。
テレビCMの派手さとは違って前半は非常にたるい。人形操作師(パペットマスター)がマルコビッチの脳の中に長くいる方法を見つけ彼を操る、ところに至るまでが非常に長い。人形の操作があまりにも素晴らしいために余すところなく映し出しておこうとしたのだろうが、映画の本筋と反発してしまって本筋のほうが影が薄くなっている。また、7階1/2のフロアの不思議さも生かしきれていない。マルコビッチの穴に潜り込み人の目から見た風景を「最高の気分」といきなり表現してしまうのはSFを知っていればちょっと陳腐、マルコビッチの中に入って相手とセックスするシーンはもっと幻想的に描きようがあると思うのだがあまり工夫は凝らされていない、四十四歳が終わるまでに脳の中に入らないといけないと老人たちが言うのだがどここか唐突過ぎる。
はっきりいって盛り込み過ぎ。妙に天井の低い7と2分の1階。マルコビッチの脳の世界に入り込む人たち。女対女の真(?)の性交と子供の誕生。パペットの美しいシーン。マルコビッチ自身の踊り。脳を渡り歩き生きていく老人たち。マルコビッチがマルコビッチの穴に入り込んだ時の混乱。マルコビッチの過去の世界で追いかけっこをする姿。ちょっとは整理してどたばたギャグを付け加えて焦点を絞ってパペットを二つぐらいの印象的なシーンのみに絞って一時間二十分ぐらいに纏め上げたほうが娯楽映画としてはいい感じになると思うのだが……おそらく、全く違うチープなものになってしまうのだろう。
啓蒙だとか恋愛映画とか戦争映画とか感傷映画が流行っている中で、ナンセンスを突き通すのは難しい。ましてや、人の脳に入り込む=人を操る=人形操作と発想が広げられるところでこじんまりと纏まった映画を作っても大して面白くもない。となると、せっかくマルコビッチという俳優がそのまま出演してくれるのだから彼を中心軸にして材料を生のまま配置させてもいいのではないか、という趣向に私はみえる。
それが果たして成功だったのか否かは興行成績を見ればわかるし、石川美千花の今年のいち押し、というところで観客の反応は上々だったことがわかる。
映画の筋の絡みあわせは慎重に行われている。単なる辻褄合わせではなくてうまく「人の脳に入り込む」部分と「人を操る」部分が噛み合わさっている。ただ、うまく噛み合わさっている分だけ映画特有の強引さがなく、前半のたるさはそれが原因ともいえる。
もちろん、この映画はナンセンスだけではない。だが、何かと頭を捏ね繰り回すよりも感じるだけのナンセンスさがこの映画には一番似合っているような気がする。
update: 2001/03/26
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