書評日記 第447冊
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潤一郎ラビリンス X
谷崎潤一郎
中公文庫 ISBNISBN4-12-203247-4
目次から「小僧の夢」、「二人の稚児」、「小さな王国」、「母を恋ふる記」、「或る少年の怯え」。
全集がほしいなあ、と思う作家は、澁澤龍彦と夢野久作、そして、谷崎潤一郎。筒井康隆は、機会があれば。安部公房も忘れずに。大江健三郎もか? 倉橋由美子もいいなあ。…とか、やっていると、人生無駄遣いをしているみたいなので、やめておく。
中公文庫の「潤一郎ラビリンス」は『鍵』やら『痴人の愛』やら『細雪』やら名作(?)で知られている谷崎潤一郎の拾遺集というスタンスだろうか。有名どころを一通り読んだら、さらに嵌まってみるのも悪くはないだろう。
読むと分かるのだが、これらの作品は大正時代に書かれている。同時代作家を思い浮かべれば――とは言え、佐藤春夫とか有島武男だとか、日本文学史でしか名前が浮かばない人たちが並んでしまうのだが――彼の作品が如何にあたらしい匂いを醸し出していたか分かる。いや、時代から浮遊していたのかもしれない。戦前・戦中・戦後と長く生きた彼の人生は、明治34年から始まり、昭和40年で終わる。作家としては長い人生は、ふと見れば、薄く引き延ばされてしまったゆえの、同時代性の無さを思わせる。つまり、個人のみが其処にあり、古さとも新しさとも無縁のような気が私にはする。
「少年」というキーワードがこの文庫本のテーマである。
同時に「夢」というキーワードも重なっている。
少年特有の思春期から大人への一歩を進めるときの怯えと男性特有の無意識な連続性が其処にはある。少女から大人へと成長する過程は、ふたつの季節の間は果てしなく広いような感じを受ける。ともすれば、母親然としかならない女性もあり、娼婦然としかならない女性もある。むろん、こういう見方ないし指摘が、男性から見た女性への要望を含めていることを承知でかき出してみる。そして、対するところにある「少年」という季節は、ひとたび大人という年齢になっても、すぐさまに憧憬という形で戻っていくことができるような気がする。
それは、端的に言えば、再生産を行わない性だから、という言い草もあるだろう。
まあ、それは置いといて、少年の目から見れば、世の中は、少女と母親と魔物に満ち溢れているということだろう。
そこに飛び込むことができるのは、女の服を脱がせるという罪人に自らを貶めることができる、無意識なる略奪者だけということだ。
分別とはくそ食らえな、純真と無知と怯えが、未だ解放され得ぬ少年の身体には潜んでいるのである。
…澁澤龍彦著『少女コレクション序説』の影響多し…
update: 1998/10/10
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