書評日記 第485冊
ユング コリン・ウィルソン
河出文庫 ISBN4-309-46127-1

 ユング批判の本。フロイト、ジャネを絡めてユングの創った「ユング心理学」を言及していく。
 
 コリン・ウィルソンはユングは「天才」であったとしている。女性遍歴がどうであろうと、夫としてのユングが癇症でだろうと、彼自身が彼自身の治療にユング心理学を適用しなかったとしても、彼の為した業績は評価するべきものがある、と締めくくっている。
 これは、一種の芸術家であり、一般的に云うところの科学者の立場である真理・原理の追求または奉仕とは異なる位置を示している。そういう意味では、フロイトとユングの立場は同じ心理学という分野ではあっても大きく異なる。人間を裁断するように類型化を施してしまうことは、微妙な心理に立ち入ることを困難にするものの、全体を把握するには必要不可欠な方法である。つまり、ヒステリー患者を直す方法を探究することと、ヒステリー患者のその原因を探求することとは、正反対の道筋である。もちろん、どちらの道筋を通ったとしても治るものは治るし治らないものは治らない。というのも、物理的な薬効とは離れたところにある心理学は――これは「器質的な」という単語によって神経症を分類することに根拠がある――人間心理の深層を患者自らが理解・納得するか否かに掛かっている。
 私はそれを「気付く」と云う。気付かなければそのまま通り過ぎてしまう。これは、故障個所があっても動く車と同じである。動かないことはない。だが、万全ではない。しかし、万全なぞこの世には有り得ない。だから、これが普通なのである。
 と、そういうことに私が気付いた時、そのきっかけがユング心理学であった。これを「共時性」とで示してもいいし、UFOの導きだとしてもいい。共同幻想であってもいい。
 

update: 1999/04/20
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