書評日記 第598冊
コンピュータは、むずかしすぎて使えない! アラン・クーパー
翔泳社 ISBN4-88135-826-X
年末年始にかけて会社で読んでいた。著者アラン・クーパーは言わずと知れた Visual Basic の父である。私はこの本で初めて知ったが。
本の装丁はあの『買ってはいけない』に似ている。全くそっくりと云ってもよい。原書の装丁はどういうものだか知らないが、タイトルは「The Inmates are Running the Asylum」(狂人が狂人病棟を運営している)だから、随分と和訳されていることになる。どちらがインパクトがあるかは別として。
プログラマではない人、完全なパソコンユーザにこの本を薦めはしない。如何にプログラマがプログラマの都合でプログラミングをして来たか、が分かって現在使っているソフトウェアに腹を立てるぐらいがオチだからだ。ただ、ちょっとしたマクロやツールを使ってパソコンを活用している人ならば、一通り目を通すのもいいかもしれない。道具としてのコンピュータ、コンピュータに使われる奴隷としてではなくてコンピュータの持つ能力を使いこなす、あるいはそうしようとしている人にとっては、今まで目の前のソフトウェアには見えなかったもの(わざと隠されてきたもの)を見つけることができると思う。そうして、なんらかの商品の分別をしていけば、いずれは頑固なプログラマ/ソフトウェア会社が少しずつ変化していくのではないか、と思ったりする。
具体的な内容を言えば、ユーザいやペルソナ(個人)に密着したソフトウェアが最高である、ということになる。勿論、多くのソフトウェアは既製品であるし、ほとんどのソフトウェアは自分には関係ないものばかりだ。また、目的のソフトウェアを決して安くはない金額で買ったところで使いたい機能はそう多くはない。その最大公約数の部分をピックアップする。そして、個人のニーズに合わせてソフトウェアを開発し、また別の個人のニーズには別のソフトウェアがある、という仕組みである。
実は、ソフトウェアを作ることは並々ならぬ時間が掛かる。相当量の人件費と相当量の工数=時間を掛けて作っているわりには、計画や仕様が杜撰であったりする。何故、億単位のプロジェクトにこんな大雑把な計画しかないのか、といきり立ったりする。他の製造業では考えられない(というか、私は他の製造業ではないので、他の人たちがどのくらい正確に計画立てているのか知らない)ほどの闇雲さをソフトウェア業界は持ち続けている。
勿論、まだ成熟に至らない産業であるから、という理由もあろうが、マイクロソフト社を始めてとして、コンスタントに成功している会社はなんらかの手段を講じているのであろう。当然、ソフトウェア本来の質とは違う経営船楽的な部分も多いのだろうが、現実に成功(らしき)している企業にはそれなりの理由があるだろう。そして、次世代を睨みつつシフトしていくのが企業という生命体でもある。
決してグラフィカルな面だけを主張すればよいわけではない。死人に化粧をするように、現実世界の模倣を繰り返すだけでは、本当の意味でのステップアップは望めない。
と肝に銘じるための一冊。
update: 2001/02/05
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